ほうれい線は実年齢より上に見られてしまうこともあり、なんとかしたいと考える方は少なくありません。
「ほうれい線の治療は皮膚科でできるの?」「もしかして保険適用で安く治療できる?」といった疑問を持つ方もいるでしょう。
この記事では、皮膚科でのほうれい線治療に関する保険適用の考え方から、具体的な治療法の種類、気になる費用相場まで、専門的な観点から詳しく解説します。
ほうれい線の正体と深くなる原因
多くの方が「シワ」の一種と考えているほうれい線ですが、実はその正体はシワとは少し異なります。
頬のふくらみと口周りの境界にできる溝であり、加齢によって頬の皮膚や脂肪がたるむと、この溝が深くなり影のように目立つようになります。
鼻の横から口角に伸びる境界線
ほうれい線は、医学的には「鼻唇溝(びしんこう)」と呼ばれます。頬のふくらみと口周りの筋肉の境界にできる溝のことで、シワとは区別します。
若い頃は肌にハリがあるため目立ちませんが、加齢などの要因で頬の組織がたるむと、この境界線がくっきりと目立つようになります。
つまり、ほうれい線は頬のたるみが作り出す影のようなものと理解すると良いでしょう。
主な原因は加齢によるたるみ
ほうれい線が目立つようになる最大の原因は加齢による肌構造の変化です。
肌のハリや弾力を支えるコラーゲンやエラスチンが減少し、質も低下します。また、皮下脂肪が減少したり、逆に増えて重みで垂れ下がったりすることも原因となります。
さらに、骨格を支える筋肉(表情筋)の衰えも、皮膚や脂肪を支えきれなくなり、たるみを引き起こす一因です。
ほうれい線の主な原因
分類 | 主な原因 | 内容 |
---|---|---|
内的要因 | 加齢 | コラーゲン・エラスチンの減少、骨の萎縮、筋肉の衰えなど |
外的要因 | 紫外線 | 肌の弾力線維を破壊し、たるみを促進する(光老化) |
外的要因 | 乾燥 | 肌のバリア機能が低下し、細かいシワや溝が目立ちやすくなる |
ほうれい線の種類と見分け方
一口にほうれい線といっても、その原因や状態によっていくつかの種類に分けられます。
自分のほうれい線がどのタイプかを知ることは、適切な治療法を選ぶ上で重要です。
大きく分けて、皮膚のたるみが原因の「たるみ型」、骨格のくぼみが原因の「骨格型」、皮膚の乾燥による「乾燥小じわ型」などがあります。
ほうれい線治療と保険適用の考え方
皮膚科での治療と聞くと、保険が使えると考える方も多いかもしれません。しかし、ほうれい線治療に関しては、原則として保険適用外となります。
病気の治療ではないため、費用は全額自己負担となるのが基本的な考え方です。
保険診療と自由診療の根本的な違い
日本の医療制度には「保険診療」と「自由診療」の2種類があります。
保険診療は病気やケガの治療など、生命の維持や機能の回復に必要と厚生労働省が認めた医療行為が対象です。
一方、自由診療は美容目的の治療や予防医療など、緊急性や必要性が低いと判断される医療行為が対象となります。
保険診療と自由診療の比較
項目 | 保険診療 | 自由診療 |
---|---|---|
目的 | 病気やケガの治療 | 美容目的、QOL(生活の質)の向上 |
費用 | 一部自己負担(原則1〜3割) | 全額自己負担 |
治療内容 | 国が定めた範囲内 | クリニックが独自に設定可能 |
美容目的の治療は自由診療
ほうれい線は加齢による自然な変化であり、病気ではありません。そのため、ほうれい線を目立たなくさせる治療は、容姿をより良くするための「美容目的」と判断されます。
このような美容医療は健康保険の対象外となるため、治療にかかる費用はすべて自己負担の自由診療となります。
病気の治療に付随する場合は例外も
極めてまれなケースですが、顔面神経麻痺の後遺症など、病気の治療の一環として顔の左右差を整える目的で施術を行う際は保険診療の対象となる可能性もゼロではありません。
ただし、これはあくまで病気の治療が主目的の場合です。一般的な美容目的でのほうれい線治療とは全く異なるため、混同しないように注意が必要です。
美容皮膚科で行う主なほうれい線治療
美容皮膚科では、主に「ヒアルロン酸注入」「HIFU(ハイフ)などの照射治療」「糸リフト」の3つの方法でほうれい線に働きかけます。
これらの治療は、溝を埋める、たるみを引き締める、物理的に引き上げるといった異なる作用で悩みを改善します。
ヒアルロン酸などの注入治療
注入治療はほうれい線の溝に薬剤を直接注入し、内側から皮膚を持ち上げて溝を目立たなくさせる方法です。
代表的なものがヒアルロン酸注入で、即効性が高く、ダウンタイムが短いのが特徴です。
ヒアルロン酸はもともと体内に存在する成分なので、アレルギーのリスクが低いとされています。
代表的な注入治療
治療法 | 特徴 | 持続期間の目安 |
---|---|---|
ヒアルロン酸注入 | 溝を直接埋めて持ち上げる。即効性が高い。 | 6ヶ月~2年程度 |
コラーゲン注入 | 肌のハリや弾力を補う。アレルギーテストが必要な場合がある。 | 6ヶ月~1年程度 |
PRP皮膚再生療法 | 自身の血液から抽出した成分を注入し、組織の再生を促す。 | 1年以上 |
HIFU(ハイフ)などの照射治療
照射治療は、高周波(RF)や高密度焦点式超音波(HIFU)などのエネルギーを皮膚の深層部に照射し、熱エネルギーによって組織の引き締めやコラーゲンの生成を促す治療法です。
たるみそのものに作用するため、ほうれい線の根本的な原因改善が期待できます。肌の表面を傷つけずに治療できる点が大きなメリットです。
代表的な照射治療
治療法 | 作用する層 | 主な効果 |
---|---|---|
HIFU(ハイフ) | SMAS筋膜 | たるみの引き上げ(リフトアップ) |
高周波(RF) | 真皮層~皮下脂肪 | 皮膚の引き締め(タイトニング)、コラーゲン生成 |
レーザー | 真皮層 | 肌のハリ改善、コラーゲン生成 |
糸リフト(スレッドリフト)
糸リフトは、医療用の特殊な糸を皮下に挿入し、たるんだ皮膚や脂肪を物理的に引き上げる治療法です。
コグと呼ばれるトゲのようなものが付いた糸を使用し、組織に引っ掛けて持ち上げます。
リフトアップ効果がわかりやすく、フェイスラインの改善も期待できます。また、糸が吸収される過程でコラーゲン生成が促進される効果もあります。
ほうれい線が深くなる意外な習慣とセルフケアの落とし穴
頬杖や片側噛み、うつぶせ寝といった無意識の癖が顔の歪みやたるみを引き起こし、ほうれい線を深くする原因になります。
また、美容のために良いと思って行う自己流の強いマッサージも、肌を傷つけ逆効果になる場合があるため注意が必要です。
癖がほうれい線を育てているかも
毎日何気なく行っている癖が顔の特定の筋肉に負担をかけ、ほうれい線を定着させる原因になっているケースがあります。
例えば、食事の際に片側だけで噛む癖は顔の左右の筋肉バランスを崩し、片方だけほうれい線が深くなる原因になります。
また、頬杖をつく、うつぶせで寝るなどの習慣も長時間にわたって皮膚に圧力をかけ、たるみやシワを助長します。
注意したい生活習慣の例
- 片側だけで食べ物を噛む
- 頬杖をつく
- うつぶせや横向きで寝る
- スマートフォンを長時間下向きで見る
- 無意識に口角を下げている
良かれと思ったスキンケアが逆効果に
ほうれい線を消したい一心で、自己流のマッサージを頑張りすぎている方も注意が必要です。
強い力で肌を擦ったり引っ張ったりするマッサージは、かえって皮膚を支える線維を傷つけ、たるみを悪化させる可能性があります。
また、保湿が不十分なままマッサージを行うと摩擦によって肌にダメージを与え、乾燥小じわを増やすことにもなりかねません。
セルフケアで対応できる範囲とその限界
保湿ケアや紫外線対策、生活習慣の見直しといったセルフケアは、ほうれい線の予防や乾燥による浅い線を改善する上でとても重要です。
しかし、すでにたるみや骨格が原因で深く刻まれてしまったほうれい線を、セルフケアだけで完全に消すのは困難です。
化粧品は角質層までしか浸透せず、たるみの原因である真皮層や筋膜には届きません。セルフケアはあくまで現状維持や悪化防止と捉え、根本的な改善を望むのであれば専門的な治療を検討するのが賢明です。
美容皮膚科でのほうれい線治療の流れ
美容皮膚科での治療は、一般的に「カウンセリング予約」「医師の診察と治療計画の決定」「施術」「アフターフォロー」という流れで進みます。
まずは専門家と相談し、納得した上で治療を受けましょう。
カウンセリングの予約と事前の準備
まずは、電話やウェブサイトからカウンセリングの予約を取ります。
当日は、自分のほうれい線のどの部分が、どのように気になっているのかを具体的に伝えられるように準備しておくとスムーズです。
また、これまでに受けた美容医療や現在治療中の病気、服用中の薬などがあれば、正確に申告してください。
カウンセリングで確認すべきこと
- 治療法の具体的な内容と効果
- 考えられるリスクや副作用
- ダウンタイムの期間と症状
- 費用の総額と内訳
医師による診察と治療計画の立案
カウンセリングでは医師がほうれい線の状態や肌質、骨格などを診察します。
その上で、患者さんの希望や生活スタイル、予算などを考慮し、一人ひとりに合った治療計画を提案します。複数の治療法を組み合わせる提案をする場合もあります。
内容に十分に納得できたら、治療に進みます。無理に契約を勧めることはありませんので、一度持ち帰って検討するのも良いでしょう。
施術当日とアフターフォロー
治療内容によりますが、多くの場合、当日に施術が可能です。施術前にはメイクを落とし、必要に応じて麻酔クリームなどを塗布します。
施術時間は治療法によって異なりますが、数十分から1時間程度が一般的です。
施術後はクーリングなどを行った後、注意事項の説明を受けます。多くの治療では定期的な通院は必要ありませんが、何か気になる点があればすぐに相談できる体制を整えています。
ほうれい線治療の費用相場
ほうれい線治療の費用は自由診療のためクリニックによって異なりますが、ヒアルロン酸注入で5万円〜15万円、HIFUで8万円〜30万円、糸リフトで10万円〜40万円程度が一般的な相場です。
治療法別の費用目安
費用は治療の範囲や使用量によって変動します。特にヒアルロン酸注入は、注入する量(cc)で価格が決まるケースが多く、ほうれい線の深さによって必要な量が変わります。
カウンセリングの際に、自分の場合は総額でいくらになるのかを必ず確認しましょう。
主な治療法の費用相場(両側)
治療法 | 費用相場 | 備考 |
---|---|---|
ヒアルロン酸注入 | 5万円~15万円 | 使用する製剤や注入量による |
HIFU(ハイフ) | 8万円~30万円 | 照射範囲やショット数による |
糸リフト | 10万円~40万円 | 使用する糸の種類や本数による |
初診料やカウンセリング料の有無
治療費以外に、初診料や再診料、カウンセリング料が必要な場合があります。
クリニックによってはカウンセリングを無料で行っているところもあれば、施術を受ける場合は初診料が無料になるところもあります。予約時に費用体系について確認しておくと安心です。
医療ローンや分割払いについて
自由診療は高額になる場合があるため、多くのクリニックでは現金払いのほかに、クレジットカード払いや医療ローンに対応しています。
医療ローンを利用すれば、月々の負担を抑えながら治療を始められます。利用を検討する場合は、カウンセリングの際に相談してみましょう。
自分に合った治療法の選び方
様々な治療法の中から、どれが自分に合っているのかを判断するのは難しいものです。
自分に合った治療法を選ぶには、「ほうれい線の原因や深さ」「効果の即効性と持続期間」「ダウンタイムの許容範囲」という3つのポイントを考慮しましょう。
これらの希望を医師に伝え、専門的な視点からの提案を受けると納得のいく選択ができます。
ほうれい線の深さや原因で選ぶ
まずは自分のほうれい線のタイプを把握することが大切です。
まだ浅く、乾燥が主な原因であれば、肌のハリを出す照射治療などが向いているかもしれません。
一方くっきりと深く刻まれ、たるみが強い場合は、ヒアルロン酸で溝を埋めたり糸リフトで直接引き上げたりする方法が効果的です。
ほうれい線のタイプ別の治療法の考え方
ほうれい線のタイプ | 主な原因 | 治療法の選択肢例 |
---|---|---|
浅い・初期段階 | 乾燥、ハリ不足 | 照射治療(高周波など)、ピーリング |
くっきりした溝 | たるみ、脂肪の下垂 | ヒアルロン酸注入、糸リフト |
頬全体のたるみ | SMAS筋膜のゆるみ | HIFU、糸リフト |
効果の即効性と持続期間で選ぶ
すぐに効果を実感したいのであれば、ヒアルロン酸注入や糸リフトが適しています。これらの治療は施術直後から変化がわかりやすいのが特徴です。
一方、HIFUなどの照射治療はコラーゲンが生成されるまでに時間がかかるため、効果が最大化するまでに1〜3ヶ月ほど要しますが、長期的な効果が期待できます。
ダウンタイムの許容範囲で選ぶ
仕事やプライベートの予定も考慮して、ダウンタイムがどの程度取れるかを考えましょう。
照射治療はダウンタイムがほとんどないものが多く、施術後すぐに日常生活に戻れます。
ヒアルロン酸注入は内出血のリスクが、糸リフトは腫れや引きつれ感が出る場合がありますが、通常は数日から1週間程度で落ち着きます。
治療法ごとのダウンタイム比較
治療法 | 主な症状 | 期間の目安 |
---|---|---|
ヒアルロン酸注入 | 内出血、腫れ、赤み | 数日~1週間 |
HIFU(ハイフ) | 赤み、筋肉痛のような鈍痛 | 当日~数日 |
糸リフト | 腫れ、痛み、内出血、引きつれ感 | 1~2週間 |
ほうれい線治療に関するよくある質問
ほうれい線治療を皮膚科で受ける際には、保険適用されないのが一般的です。費用は5~40万円程度と、治療方法や施術範囲、クリニックによって大きく幅があります。
仕上がりは施術者の技術力や経験などにも左右されますので、その効果を十分に実感するためにも、複数のクリニックを比較検討するのがおすすめです。
- 治療を受ける際に痛みはありますか
-
治療法によって痛みの感じ方は異なります。ヒアルロン酸注入や糸リフトでは、注射針を刺すチクっとした痛みを感じるときがあります。
多くのクリニックでは、麻酔クリームや局所麻酔を使用して、痛みを最小限に抑えられます。
HIFUなどの照射治療では、皮膚の奥に響くような熱感や鈍い痛みを感じるときがありますが、出力を調整しながら行いますので、我慢できないほどの痛みではありません。
- 一度の治療で効果はどのくらい続きますか
-
効果の持続期間は、選択する治療法や個人の体質、生活習慣によって大きく異なります。
例えば、ヒアルロン酸注入は製剤の種類にもよりますが、半年から2年程度が目安です。糸リフトも種類によりますが、1年から2年程度です。
HIFUなどの照射治療は、効果のピークは数ヶ月後ですが、コラーゲンが増生されることで長期的なハリの維持が期待できます。
効果を持続させるためには、定期的なメンテナンス治療を推奨します。
- 治療後すぐにメイクはできますか
-
治療法によりますが、HIFUのような照射治療では肌表面に傷ができないため、施術直後からメイクが可能です。
一方、ヒアルロン酸注入や糸リフトのように注射針を使用する治療では、感染予防のため施術当日のメイクは避けていただくのが一般的です。
針穴がふさがる翌日からは可能な場合が多いですが、詳細は医師の指示に従ってください。
- 複数の治療を組み合わせることはできますか
-
可能です。むしろ、ほうれい線の原因は一つではないケースが多いため、複数の治療を組み合わせる「コンビネーション治療」は非常に効果的です。
例えば、HIFUでたるみを引き締めた上で、残った溝にヒアルロン酸を少量注入するといった方法があります。
それぞれの治療のメリットを活かし、デメリットを補い合って、より自然で満足度の高い仕上がりを目指せます。医師が肌の状態を診察した上で、適した組み合わせを提案します。
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